リビングルーム・デスマッチ

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 私の持っていた缶から、ブシュゥウウウウウウウッ! と、白い気体が奴に向かって放たれる。  奴とは、床にへばりついていた全長5センチほどの黒い細長い生命体。  コードネーム:G。  学名:Periplaneta fuliginosa  通称:クロゴキブリ。  黒い流星、黒くてテカテカしたアレなど、多くの二つ名を持つ人類の敵だ。  私の噴霧した殺虫剤は寸分違わずターゲットに命中した。 「うわあああああああああああああああっ!!」  しかし、当たったからといってすぐには死なない。  少なくとも、数秒は当て続けないと。奴らの生命力は、通常の生命体のそれではないのだ。 「死ねっ! 今死ねっ! すぐ死ねっ! 死ねっ死ねっ死ね死ね死ね、ぇえええええええええええあああああああああっっっっ!!」  だが、奴も待ってはくれない。  身に危険が迫れば、回避するために動き出す。  私は、それに備えていた。どの方向に逃げられようと、確実に追尾して殺虫剤を当て続ける準備は出来ていた。  ただ、私の方へ向かって来るのは、想定外だった。 「*#$+%っ!??」  私は言葉を失った。  手元が狂う。殺虫剤から解放された人類の敵は、しかしなおも私の方へ向かって来る。 「くっ……来るなっ! こっちに来るなぁああああああああああああああああ!!」  何とか人語を取り戻し、必死に叫ぶ。そんなもの、奴らが意に介さないことは知っていたのに。  後ろに後退りながら照準を合わせる。  しかし、疾すぎる。手が追いつかない。  その時、私にはどうしようもないタイムリミットが待ち受けている事に気付けなかった。  ドッ、と背中に何かが当たり、後退が止められる。 「っ!?」  壁。  そう。このリビングルームで私が奴から逃げ回るには圧倒的にスペースが足りなかったのだ。  行き止まりに追い詰められた私は、覚悟を決める。  照準なんてつけない。ただ、前方斜め下へとスプレー缶を向け、引き金を引く。  当たれ。頼む、当たってくれ。そしてお願いだから死んでくれ。  
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