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さて、それは桜咲く春の事だったか、入道雲湧く夏だったか、枯葉散る秋だったか、雪舞う冬だったか…
とにかく夕方近くになって、俺はS市の外れに有る「異形館」の前に居た。
今現在働いている、ちょっと変わった事を大袈裟に報道して売り上げを伸ばそうとする三流雑誌の編集者として来たのだ。
方向オンチな俺は、編集長手描きの地図を片手に目的地に着いたつもりだが…
町外れ、近くに他の建物は無い。
半分藪に包まれたような三メートルを越える高い石壁に囲まれた、まるで収容所の様な建物の周りを歩いている内に、一ヶ所だけ入り口が有った(黒く塗られた重そうな鉄製の門があるが)。
白髪を腰まで伸ばした、黒い上着に黒いスカートの女性が入口付近をホウキで掃き掃除をしている後ろ姿を見つけたので、声をかける。
「おばあさん、すみませんが、ここが異形館ですかぁ?」
その声を聞くと女性の手がピタリと止まり、ゆっくりと振り向きながら、ちょっと嫌味な若々しい声で「おばあさんって、私の事ですか?」
その顔を見て、私は腰が抜けるかと思った。
わ、若い…
まだアラサー位だろうか。
真っ白なロングヘアーに、陶器の様に真っ白な顔。
小枝の様に細い手足。
サングラスを掛けているから分からないが、多分瞳もサファイアブルーかエメラルドグリーンだろう。
「す、すみません。失礼しました。実は私は今日取材を約束していた月刊○○の村崎と言う者ですが…今から取材よろしいですか?」
すると、このアパートの管理人らしい美人(編集長にあらかじめ管理人の名は聞いていたのだ。)は、笑顔で
「お待ちしてました。間も無く住人の方々も帰って来るので、中でお待ちくださいな。」
と言い、ほうきを持ったまま重そうな門を力を込めて引き開けると、俺を敷地内に招き入れた。
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