7人が本棚に入れています
本棚に追加
門から入ると、長さ数メートルの歩行用通路以外は、丈の低い雑草に覆われた、何も無い「庭」だった。
建物自体は正面からはさほど大きくは見えないが、奥行きはかなりありそうだ。
壁の色は、元は真っ白だったみたいだが、風雪で薄黒く汚れ、今回の仕事の「異形さ」をイメージさせる。
入り口の門と同じ様なイメージの、黒塗りで重そうな観音開きの扉を開けると、美人は扉脇にほうきを立て掛け、「どうぞお入りください。」と私を招き入れた。
扉の中の玄関は、住人の靴箱が置かれたあっさりした物だった。
「ここが空いてるんで、ここに靴を入れて下さい。」
靴をスリッパに履き替え、入ってきた扉の向かいにある、これまたやはり黒い、しかしふつうの大きさの扉を開けて貰うと、どうやら食堂を兼ねた大広間が有った。
スッキリしていると言えば聞こえは良いが、装飾品も無く(小さなポスターや絵は有ったが)食事用の大きくシンプルなテーブルと折り畳み椅子があるだけ。
部屋の隅には将棋やオセロやチェスらしい遊具や、ある程度の大きさのテレビが乗った棚がある。
『皆、何が楽しくてここに住むんだろう?それとも、他に住める所が無いのか?』
俺の頭の中はモヤモヤした想像が渦を巻いた。
「今夜あなたが泊まるお部屋に案内します。」
俺の考えなど何も無いように、美人は足を進めた。
入ってきた扉の真向かい。一見観音開きっぽい扉が有るが、妙な事に、右側は薄い青、左側は薄いピンクに塗られている。
頭の中にたくさんのクエスチョンマークを浮かべながら、俺は美人に付いて、右側の薄い青の扉に向かった。
最初のコメントを投稿しよう!