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結婚して、半年と少し。
まだ、たったのそれだけ。
いつか、子供が生まれたらいいなとは思っていたけど、具体的な話を二人でしたことはなかった。
洗面所で手を洗って、顔を上げると酷く曖昧な表情をした自分がいた。
嬉しくないわけはない。
だけど手放しで喜ぶには……今は少し、寂しい。
プラスチックの、細長いスティック状のそれを手に取って、中央辺りの小さな窓を覗く。
それから、説明書の紙を広げてもう一度確認する。
間違いなく、陽性。
それを大事に透明なビニールの袋に入れて、洗面所の隅に置いた。
一番に知らせるべき人とは、もう二週間会ってない。
『春妃、ごめんな』
このところの亨の忙しさは、半端ない。
連日深夜遅くまでの残業で、彼は弱音こそ吐かなかったけど疲労の色は濃い。
そんな中での、一か月の出張だった。
出かける間際、彼は何度も申し訳なさそうにキスをした。
首筋に残していった痕も、今はもう消えてしまった。
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