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「三食きちんと管理してますから」
ご心配なく、と続けた夏目には答えず。それでも少し安心したように緩めた自分の頬に、葛見が秋月の手を軽く押し付けた。
「冷たいぞ」
「今、水をいじってたから」
くすりと笑った秋月が葛見の手から指を抜き取る。笑い返して、葛見が視線を夏目に流した。見つめていた夏目が慌てて目を逸す。
「そうそう、例の黒木商会の件な、警察の知り合いから連絡が来た」
馬刺しの鮨と残り物の焼鮭の南蛮漬けをお茶づけにして掻き込んで。煙草に火をつけて一服していた葛見が口を開いた。本当はそれを伝えに来たのだろう。
「それで?」
秋月が思わしげな視線を返す。例の事件の翌日、葛見が偽造した薬物のデータを添えて秋月の件を警察に持ち込んだ。ここぞとばかりに黒木商会に警察の手入れが入ったことは聞いていた。
「決定的な証拠は何も出なかったとさ……案の定、だけどな」
そんな、と声を上げた夏目に、葛見が肩を竦めて見せる。
しかしただでは警察も引き下がれない。売春容疑に捜査を切り替えて、店の営業を一時停止にしたと言う。
「あれ以来、奴らは立ち退きを迫っては来ないが……」
秋月が顔を曇らせる。
「このまま諦めるでしょうか?」
夏目が言うと、どうかな、と葛見が新しい煙草を引き出した。
「例の店は近々営業を再開するらしいし、やつらがそう大きな痛手を受けてるとは思えない。警察も引き続き水面下で動いているらしいから、向こうもしばらくは大人しくしてると思うがな……楽観は出来ないぜ」
「証文の件はそのままだしな……しばらくは様子見か」
秋月の言葉に、葛見が頷いた。
「彼女、どうしたかな」
ぽつりと呟いた夏目の声。秋月の表情が、はっと心配気なものに変わる。彼女、とは紅緒のことだ。彼女がくれた電話で夏目が秋月の急を知ったことは、後から聞いていた。
「俺んちに居るぜ」
あっさりと言われて。ええ?と夏目がカウンターから身を乗り出す。
「店を一時停止にした時に、あそこで使われていた女の子達が大勢引っ張られてな……その中に紅緒もいたんだ。俺が身元引受人になった」
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