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「―――好きな人とのキスなら、別です!」
思わず出た夏目の大声。一瞬、店内がしん、とする。
無言の視線を浴びて夏目が真っ赤になった。しかし言ってしまった言葉は取り戻せない。
―――もう、こうなったら。
振り向いた黒い瞳にきっと見つめられて、秋月が微かに怯んだ。
「俺―――」
「悪りぃな、お前の気持ちは受け取れん」
いきなり割って入った葛見の言葉に、そちらに向けた夏目の目がテンになる。
「…………は?」
「お前さ、キス下手だよなぁ」
しみじみと言われて、夏目の顔がまた赤くなる。
「だいたい、舌の使い方が上手くない……あれじゃ、感じろって言っても無理だな」
「な……」
背後から秋月の視線を感じながら、夏目が窮した顔になる。
「俺のキスのテクニックで、ヤラれたお前の気持ちは分からんでもないが、俺はやっぱり胸がないとダメだな」
諦めてくれと神妙な顔で言われて。
「そのくらいにしておけよ……夏目が困っているぞ」
硬い声に肩を竦めた葛見が腕時計に視線を走らせた。
「お、そろそろ開店の時間じゃないのか」
じゃあなと葛見がカウンターを立つ。
「あ、お勘定!」
夏目が慌てた声を出した。
「今度な、キスのやり方、教えてやるよ」
それでちゃら、とひらひら手を振った葛見に、要りませんよっ!と夏目がようやく言葉を押し出す。
「……葛見」
トーンを落とした秋月の声に。お、と葛見が少しだけ怯んだ視線を返した。秋月さん、言ってやって下さいよぅと背後で夏目。
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