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「個人的な精算は、店と別にしてくれないか」
「…………」
「…………」
顔を見合わせた葛見と夏目が、小さく溜息をついた。
「秋月さん、あの……俺」
葛見が帰った店内。夏目が秋月を振り向く。言いたかった言葉はあったのだけれど、葛見にすっかり気勢を削がれてしまった。
「葛見が悪ノリして、すまないな」
気にしないでくれ、と言われて、はいと夏目が頷く。
「でも……あいつの言うとおりだから」
「え?」
微妙に視線を外して言う秋月を、夏目が見返す。
「握手みたいなものだって……俺もそう、思ってるから。もう、あの話は、終わりにしよう」
握手、と言い切られて、夏目が言葉を無くす。
「時間だぞ。暖簾を出してくれ」
「……あ、はい」
言われて玄関に向った背中を、秋月が見つめた。
そうだ。意味なんか、あるはずがない。あんな状況でのくちづけに。
―――好きな人が相手ならともかく。
夏目の言葉が胸に痛いのは、何故なのか。
分からないまま、秋月が厨房に向った。
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>第9話 霜月 に続く
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