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第2章 宮野の本性
「あ、やっと来たんですか先輩。遅いですよ――。」
先ほどの店長との挨拶とは違い、やや甘えた感じで話し掛けてきた。少女は既に店の制服に着替え終わり、スマホ弄りながらパイプイスに座って彼がここへ来るのを待っていたようだ。
「いや、店長の顔がすごい疲れ顔してたからさ。」
そう言いつつコンビニ事務室の壁に貼ってある7月中旬以降のシフト表を確認するためにイスに座らずに少女の横を通り過ぎて行く。少女はその動きを目で追いながら、販促用に配られたうちわを仰いでいた。まだ汗が引いていないせいか、少し不快そうにしている。
「大人は大変だよな、宮野。こんな暑いのに夏休みがないなんてさ。さっき店長に言われたよ。彼女がいる夏休みは楽しいとか。」
その言葉を聞いた宮野という少女は眉を少しピクリとさせ、じとっと安藤の顔を見つめた。
「はぁ、夏なんてなくなればいいのになぁ。」
宮野が何を言い出したのか分からない安藤は、その真意を聞いてみることにした。
「なんで?夏休みだぞ。あった方が、いいに決まってるだろ。暑いこと我慢すれば、学校に行かずに遊べるし。」
遊びたい盛りの学生らしい見本のような回答をしたが、宮野はこの回答がお気に召さない様子だった。
「はぁ、先輩は分かってないですね。」
「なに?なんでそんな目で俺を見るの?」
後輩である宮野にまだ現実が理解出来ていないよと、そんな顔をしながら言われてしまい。その意味を問うことで精いっぱいだった。彼は彼女がこのような視線を向けた意味がまだ分からず、素直に聞き返してみた。
「今月のシフト表をよく見てください。私たちのシフト別々の時間帯になることが多いです。」
そういうことかと彼は彼女が言わんとすることにも合点がいった。これでは、俺たちに不都合が生まれた。
「そうか、そういうことか。」
「分かりました、先輩。そうなんです。これじゃ、夏休みなのに2人で遊びに行けません。」
不満そうな顔をして、新しく印刷されてそう日も経っていなさそうな印刷紙を見つめて言った。
「気が付かなかったわ。でも、お互い休みの日だってあるわけだし。そこまで悪くないシフトだと思うぞ。 」
「それじゃ、学校ある日の方が会える日が多いくらいですよ。これなら、夏なんてなくなったほうが良くないですか? 」
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