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そんなことを恥ずかしがることもなく俺の目を見ながら言い出す宮野。その視線に耐え切れずに思わず目を逸らしてしまった。少し茶化すように話を変える作戦に出た。
「あざといなぁ。で、本音は?」
「あざとくないですよ。本音を今言いましたからね。なんなんですか?私って先輩の何ですか?」
思ってみなかった反論に少し動揺してしまった。私と仕事とどっちが大事なの、みたいた問いを生まれて初めてされてしまい安藤は動揺した。だんだん話の雲行きが怪しいことを感じつつ彼は、しどろもどろに言い訳を始める。
「が、学校の先輩で、バイトの先輩で。」
「それから?ほかは?」
そんな彼の様子をにやにやしながら宮野はその先に続くであろうセリフが彼の口から出てくるのを待っている。
「ちょっ!そういう誤解を生む言い回しは辞めろ。 最近、宮野の彼氏になりました。 ……くそっ。恥ずかしい言わせんなよ。」
若干、照れながらそう言う安藤の顔を見た宮野は、満足気な表情を浮かべていた。期待していた答えが返ってきたのだろう。
「いやー。なんかいいですね、こういうの。先輩の照れる顔も見れたので、許してあげますよ。私は寛大ですから。」
年下の彼女が出来たばかりの安藤にとって、宮野はかわいい反面、付き合う前には見せてこなかった小悪魔っぷりを披露するようになった。年下の女の子にやや翻弄されてしまうことに、自分の情けなさを感じつつも宮野は他の人間には外面の良さしか見せない。高校で自分しか知らない彼女の一面を知っているというのは優越感もあるが、こういった男女の駆け引きのようなやり取りに免疫がない安藤にとってはそれもまた彼女の魅力として受け入れていた。
「あ――、なんか悪いことしちゃったな。まぁでもそれも青春でいいか。」
実は、このやり取りを途中から聞いてしまった店長がそんな事を呟きながら、彼らに気付かれないようにそっとドアを閉めてまたレジの方へ向かっていくのを彼らは知らなかった。
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