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鬱蒼とした木々の中を影が横切る。
前を行く二つの影が、慣れない足元で草や木の根に足を取られ、枝にぶつかりながらなのに対し、追いかける三つの影は鮮やかなほど軽やかに木々の隙間を掻い潜る。
「今夜は二匹か。ついてるな」
鼬(いたち)の面を被った少年が、枝から枝に飛びながら言った。嬉しそうに頷いたのは鳶(とんび)の面の少年。狸の面を着けた、背の高い少年はぎこちなく視線を逸らした。
姿形は少しやせ形であるくらいで、何も変哲のない、前を走る少年たちと同じく、どこにでもいる人間だった。しかし彼らは人間にあらず、雛木山(ひなぎさん)を住みかとする<イツセ>という妖怪なのだ。
イツセの生業は山に紛れ込んだ人間を狩ること。彼ら自身が人間を喰らうわけではないが、生きるためにやらなければいけない。
イツセの少年、山吹(やまぶき)も他のイツセたちと同じく何度も狩に参加したことがある。だが、何度行っても慣れたものではない。澄まし顔の狸の面の下は、たっぷりと冷や汗をかいていた。
「おい、お前ら! 寝るのにはまだ早いぜ! 道を塞げ! アマタ様の食事だ!」
鼬面のイツセが叫べば、微睡んでいた木々は柔らかいもののようにしなやかに曲がり、少年たちの逃げ道を塞いだ。
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