序ノ巻

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「あのバカ……」  鼬面のイツセは頭を抱えて溜め息をついた。  障害物の多い山の中で何も見ずに動けばそうなるに決まっている。 「松葉(まつば)」  鳶面のイツセが鼬面のイツセへ声をかけた。 「聴(ゆるし)。悪いがあれをどうにかしてやってくれ。あいつまで混乱してやがる」 「それは勿論だけど、もう一匹は追いかけなくていいの?」 「わざわざ戦力を分散させる必要はない、向こうから来てくれるさ。それが人間ってやつだからな」  自身ありげな松葉に、聴はふーんと鼻を鳴らした。 「うわあああああ、化け物! こっちくんな! 俺から離れろ!」 「ちょっと、あ、暴れないでよぉ」  揉んどりうって草の上に転げる山吹と少年。山吹なんかは泣き出しそうになっている。これでは何をしに来たか分からない。  聴はひらりと二人の側に降り立ち、印を組んだ。 「眠いのに、ごめんね」  生い茂った草が淡い光を放ち、ざわざわとざわめきだしたかと思うと、少年の体に絡み付いていく。 「ひいい、なんだよこれえ」  少年は抵抗するも、草は完全に少年を捕らえており、抜け出すことは不可能に近かった。しかしこの術は強力であるかわりに、術者である聴にとってかなりの負担がかかるらしく、聴の青ざめた顔には汗が滲んでいた。 「山吹! 早く!」 「明彦おおお! 助けてくれえ!」  二人の声が、同時に届いた。
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