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「……弥太郎?」
逆方向に逃げた少年は遠くから聞こえた声にふと我に立ち返った。後ろを振り返ったが、そこにいるはずの人物はおらず、さあっと少年の顔が青ざめる。
大切な友人が傷つけられる。そう考えると、途端に怒りに全身が震えた。
「くそがっ」
悪態をつきながら少年は悲鳴の方へと駆けた。
***
呆然としていた山吹は、聴の声でそれが彼の術によるものだと理解した。そしてその術が長くはもたないことも。
ここぞとばかりに、あわてふためきながらも短刀を持ち出した。そして毎日研ぎ上げた鋭い刃を振り上げ、勢いよくその若々しい肌に突き刺した。
「ぎゃあああああ!!!」
声変わり前の甲高い悲鳴が森に響き渡る。大量の血液が溢れだすと同時に聴の術が消えた。
手に残る柔肌に突き刺す感触、そして初めての狩の成功の瞬間に、立ち眩みしそうなほどの達成感が駆け抜けた。
「これが狩……」
しかし喜びは束の間、背後で聴がどさりと崩れ落ちた。山吹は駆け寄り、荒い息を繰り返すその細い体を抱き起こした。
「ゆ、聴、大丈夫?」
「俺のことはいいから、あっちを……まだ終わってないから」
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