価値ある地への近道は

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「好き放題言いやがって……」 自室に戻り、荒々しくベッドに体を預けた。頭の中ではずっと、ディーンに言われたことがぐるぐると回っている。 甘いだなんだと、どうしてあいつに言われなければならないんだ。働くべき年齢?まだ俺は十七歳だ。こっちじゃどうかは知らないが、まだまだ親や大人に頼る年頃だろうが。 こっちだって、好きで頼ってるわけじゃない。 好きでこの家にいるわけじゃない。 この世界の言語を学びたいなんて思ってない。 来たいと思ってこの世界に来たわけじゃないんだ。 「……なんなんだよ、くそっ」 言い訳ばかりが頭に浮かんだ。どうにかして自分を正当化しようとした。 実際、客観的に見たって俺の現況は同情されるべきだろう。頼っていることだってやむなしと思ってもらえるに違いない。 そんな風に結論づけようとはしたものの、心の隅に引っかかっているもやもやは取れなかった。 ふと、昔やったローファンタジーのロールプレイングゲームを思い出した。親をなくして身寄りがなくなった主人公。高校生の彼は親の知人に引き取られていったはずだ。 「……ちょっと似てるかもな」 自分の現状と。 横にしていた体を起こした。 彼は引き取られた後どうしたんだったか。 「……確か、引き取ってくれた人が忙しい人で……」 家のことや自分のことは、全部自分でやらないといけなかった。そのくせ、転校先の学校では真面目でないといけなくて、試験などで結果も出さないといけなかった。 クリア後に見たネットのレビューでは、やらないといけないことが多過ぎて純粋に楽しめない、だとか、主人公が完璧過ぎて感情移入できない、だとかで、あまり良い評価はなかった。 「俺は結構、好きだったんだけどな……」 家事全般をこなし、学校では成績トップで、保護者や友達への気遣いも上手、ストーリーの終盤では学費すら自分のバイトでまかなっていた主人公。 今考えれば、突き抜けてハイスペックな人間だ。自分を重ねるなんてできそうもないし、こんな人間存在するはずもない。だけど。 「……憧れたんだよな、あの時は」 いつかこんな風になれたら、なんて思って、親への反抗も忘れて料理を教えてもらったりもした。一週間ともたなかったが。 「なんで今思い出すかなあ、こんなこと……」 ベッドから机に移動して、ノートとペン、それから辞書を広げた。
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