価値ある地への近道は

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部屋を出て、足音に気をつけながら廊下を進む。日が昇ってきているとはいえ、灯りが消えているまだ暗い廊下を音を殺して歩くのはなかなか難しい。雑多なインテリアがないシンプルな内装なのがありがたかった。 階段から見て、二階の一番奥。 そこが目的地であるハスクさんの自室だ。 メイドの二人が起きてくる時間はわからないから、できるだけ急がなくては。別にバレたからといってどうということもないが、一応秘密にしておきたい。 ディーンの部屋、リクスさん、リジーさんの部屋、ハイネちゃんの部屋、用途不明の開けたことがない扉をいくつか通り過ぎ、目的地へと静かに移動した。 一番奥の扉の前に立ち、ぽりぽりと頭を掻いた。書き上げた手紙を持ってきたのはいいが、扉の前にポストなんかあるはずもない。 扉の下の隙間から投げ込めばいいか。 床に膝をつき、わずかな視界から中を覗き込もうとしたが、隙間は狭いし辺りはくらいしで、ろくに見えない。 まあ、強く投げ入れなければ妙なところに入り込んだりもしないだろう。 ズボンのポケットから四つ折りにした手紙を取り出し、ドアの隙間に当てる。軽く力を入れて、中へと滑らせた。 任務は達成、あとは返事を待とう。 部屋への帰り道でも、特に何かが起こることはなかった。徹夜のせいか体がどことなくだるかったが、あと一時間少々で朝食の時間になる。寝るわけにはいかない、起きる自信がない。 ぼーっとしていると椅子に座っていても眠ってしまいそうだったので、勉強をして気を紛らわすことにした。 ノートを開いて間もなく、かちゃ、ばたん、という音が続けて聞こえた。ぱたぱた、という足音と、小さく抑えた女性の声が扉の隙間から続いて漏れてくる。リクスさんとリジーさんが起きてきたようだ。 時計を見上げると、まだ時間は五時半。空は濁ったような青色で、まだ完全に太陽は見えない。こんな時間から動き出すとは、頭が下がるな。 昔の思い出が蘇ったことから手伝いを申し出たい気にもなった。しかし、朝の忙しいだろう時に意思疎通が図れない人間がいてもな、と思いとどまった。 今は手紙の返事を待ちつつ勉強を進めよう。望む返事が得られるといいが。 気の持ちようが影響したのだろう。朝食の時間までのわずかな時間だったが、いつもよりも理解力が増しているように感じられた。
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