45 私じゃダメだ

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*  急募即日と記載のある会社を選んで応募していたせいもあってか、今日は昨日の時点で約束のあった一社に加え、新たに二社の面接を受けることができた。  しかし、採用されそうな手ごたえのある会社は一つとしてなかった。  ホステスという職歴に、面接などそっちのけでセクハラまがいの質問をしたり、侮辱とも取れる発言を受け、すっかり身についていたはずの愛想笑いさえできず、逆に泣いてしまいそうになった。  夕方になっても、米本からの電話はかかってこない。  あの女の子たちは、私のメモを渡してくれただろうか。  仕方がないので今日もビルの入り口で待ってみよう。  そう思った矢先に、朝から続いていた曇天からとうとう雨が降り出した。  とことんついていない。  傘のない私は、手でさほど役に立たない雨よけを作りながら、小走りで横断歩道を渡る。  道を挟んだ向かいにあるコーヒーショップで雨宿りさせてもらおう。  道路沿いのカウンター席に座れば、米本の出入りもわかる。  面接を受けるために出向いた会社間の移動も、できるだけ電車を使わないようにしたので脚の疲労も限界に近かった。  ホットのキャラメルラテが、優しく身体にしみこんでいくのがわかる。  昼ごはんも抜きなのでなおさら甘さが嬉しい。  十分時間をかけて落ち着くと、私は鞄から走り書きした紙切れを取り出した。  敷金礼金なしで即入居が可能、家賃は三万六千円。  先ほど通りかかった不動産屋の店頭に貼り出されていた物件だ。  この際、住めればどんなところでもかまわないが、ここはこの値段でバストイレつきだ。  幽霊が出ても文句は言わない。  フリーのアルバイト情報誌をめくり、その物件の近くで募集しているアルバイトを探す。  憧れの会社勤めは長期戦の就職活動になりそうだが、ただのん気に面接を受けていられる身分ではない。  同時進行で働いて生活費を稼いで、そして、月々の家賃を支払える目処がつけば、米本に賃貸の保証人になってもらいたい。  甘えているだろうか。  その時、自動ドアが開き、女性の三人連れが店に入ってきた。  ぱっと目をひく華やかさは、米本の会社の受付嬢だ。
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