第一章

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「君はパトロール中にこの大金を拾ったんだよね?」 「そうですけど……」 「だったら、君に謝礼を受け取る事は出来ない」 …………。 は? はぁ!? 「な、なんで!?」 「公務中に拾った物に、遺失物法は該当しないんだ」 ちょ……。 なんだよ、それ……。 じゃあ、俺は百万円を貰えないって事なのか? それはあんまりじゃないか! あまりに理不尽だ! だったら……。 「じゃあ、辞めます!」 「え?」 「警察官なんか、もうやめてやるからお金下さい!」 俺は、気が動転してそんな事を口走っていた。 「ちょっと、落ち着かないか たかが百万円ごときで、職を手放す奴があるか! 」 上司の言う事は尤もだ。 俺は直ぐに気を取り戻した。 「そ、そうですよね…… ははは……」 笑ってごまかす俺。 「全く……、恥を知れ」 「はい、すみません……」 怒られちゃったよ。 「と、言う訳なのでこの大金は全額お持ち帰り下さい お車をお出ししましょう」 上司はそう言って、老婆に落とし物を返却した。 「本当に謝礼はよろしいんでしょうか?」 老婆は、申し訳なさそうに確認してきたが。 「あ、全然大丈夫です 見苦しいところを見せてしまってすみません」 俺は、作り笑いであしらった。 「そうですか では、私はこれで……」 俺の言葉を聞いて、老婆は上司に連れられ立ち去った。 はぁ……。 百万円……。 惜しかったなぁ……。 俺が凹んでいた時。 「あの」 老婆が、最後に話しかけてきた。 「はい?」 「この度は、本当にありがとうございました このお金は、命と同等に大事な物だったのです あなたに拾って頂き、本当に良かったと思ってます」 老婆は俺に向けて、深々と頭を下げた。 ふん……。 「いえ、本官は当然の事をしただけであります!」 俺は、敬礼をして老婆を見送った。 まぁ、あれだ……。 肩書きが正義の仕事なんて、案外理不尽で大変な事が多いのかも知れない。 それでも……。 感謝されるって事は良いものだ。 なかなか、この仕事も悪くない。
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