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俺は文明が嫌いだ。
この世界を嫌悪する。
◇
この手記は、俺がこの目で見た世界の事を記したものである。
15年前、世界は完成した。
夏の中旬のある日の事である。
丁度、その日に生まれた小さな可愛いらしい赤ん坊が居た。それが俺だ。
母の狭いお腹の中から這い出た時、この広大な世界に目を広げ、きっと俺は絶望したのだろう。なんてつまらない世界に生まれたのだと
きっとこの世界に絶望した俺は、愛する母のお腹の中に帰った方がまだマシだとおいおい咽び泣いて、助産婦さんを困らせた事だろう。
「世界竣工の日」と後にそう呼ばれる事になる日。それが俺の誕生日である。
いや、「後に」と記したが、この手記を書いている今、すでに15年近くも前の事になるのだが、しかしまぁそんな事はいいだろう。
この世間的には記念すべき日であり俺にとっては忌むべき日付でもある「世界竣工の日」これがどういうものなのかと言うのを読者の皆様に説明しよう。
これは最近知ったことなのだが「竣工」とは、建造物などの完成を意味する事なのだと言う。つまり世界の竣工とは世界を一つの建造物とした時に完成を遂げたという意味だそうだ。
先ず、この日を境に大きく変わった物がある。それは、法律だ。
何条だったかなどは覚えていない、確か5より上の数だった筈。
とにかく15年前以来に改訂された六法全書を見ているとおそらくこんな事が書いてあるだろう。
「これより科学の発展の一切を禁ずる。」
さすがにこんな拙い文章ではないだろうが、まぁこれと似たような事が法の叡書に書かれている筈だ。
これは、俺の住む国の日本だけに導入された法律では無く世界全体一切の例外無く導入されたものである。いわば、世界全体の決まりであり、この法を破るという事は世界全体を敵に回すと言う事に相応しい。
科学の発展を禁ずる。
一見、人類の進化を停滞させるかのような制約だ、しかしこの法は人類が進化の果てに手に入れた結論なのだ。
俺がおぎゃあとこの星に生まれるまで数回の大戦と数回の技術革命があったらしい。
数回の大戦は、人類に火器銃器の恐怖を刻みつけ平和への要望を唱えさせる事になった。その数多い大戦は、皮肉にも数々の技術革命を生み世界の竣工に至ったのだった。
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