前話 ~森を尋ねて~

3/5
前へ
/5ページ
次へ
技術の進化とは戦争から多く生み出されるものであり、逆に言えば技術の進化が無ければ戦争を廃止する事が出来る。新たな技術に対する利権も新たな兵器に対する恐怖も消え去るからだ。 人類は幾度もの戦争による悲劇と改革を繰り返しこの結論を出した。 ある一定まで科学を発展させ、全人類が平等に豊かに暮らせるようにした後に科学の発展を停止させ世界を保存する。 進歩はないが、退化もなく、恐慌も貧困も戦争も無い世界。 それこそが世界の「竣工」であり、完成なのである。 人々は、口を揃えてこう言うのだ。 「100年前の人類が、この世界を見ればきっと『理想郷』と言うだろう」と すべての国が、手を取り合い。過激な改革を望む野心家の政治家は消え去り、保守的で安穏的な思考の人間が国の上に立つようになった。 正に平和 然し平坦 この世界は進歩を止め目の前のあるかもわからない困難に恐怖し、安全かもわからないが、今は崩れる事のない足場で延々と足踏みをして、さも自分達は高尚だと言うように高らかに歌うのだ。 「人々が手を繋ぎ笑いあって輪を作る。その為に地球は丸いのだ。」 どっかの偉い奴が言った。 何言ってんだか。 あらゆる技術発展の可能性があったとしても、新しいスマートフォンが出る事も無く、新しいプレイステーションが出る事も無くなったこの世界。 今ある機械だけを使い生きていく事が義務化されたこの星で、意外にも反感的思想を持ち合わせている人間はとても珍しいものだった。 俺くらいのものである。 何故、劇的なものを望む人類に変革のない世界が容易に受け入れらたのかと言うと、単に一言「便利だから」である。 あらゆるシステムが完璧に管理され、なに不自由も無く生活する事が出来る。 最低限の衣食住は世界中の人間が保証され。仕事をして、より大きな財産を得た人間は更に便利で快適な生活ができるようになる。 つまりは世界の全員がマイナスやゼロからでは無くプラスからのスタートとなるのだ。 別にそれに関しては、なんら不満もない。素晴らしい事だろう。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加