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ほほに当たるぬるい風。
雨水が染み込んだコンクリート。
草陰でキリキリ鳴く虫たち。
夏に蒸し上げられた夜は、じっとりと私の体にまとわりつく。
仕事が終わった夜の10時。
ところどころに水溜まりのある歩道を、傘を杖替わりにして、ペタペタと昼間の雨で濡れた靴で歩く。
いつも通りの時間に、いつも通りの帰り道。
(つかれたなぁ・・・)
(今日何食べようかな・・・)
(てか、何か食べるのあったっけ?)
(あぁ、卵残ってたな)
(じゃあ、オムライスでいいか)
(あー、やっぱめんどいからTKGで)
塞いだ耳からは、最近ハマったドラマの主題歌が流れている。
(帰ったら洗濯しないとなぁ・・・。)
(他の掃除・・・は、明日でいいや)
昼に買った飲み残しのお茶で、喉を潤しながら歩く。
いつも通り。
全部いつも通り。
無闇に怒鳴りつけてくる上司も。
それを見て笑う同僚も。
こわばった笑顔を貼り付けた自分も。
いつも通り。
ポツリ、ポツリと
シャツに染みが広がる。
夕方に止んでいた筈の雨がまた降り始める。
杖替わりにしていた傘を広げて、少し歩調を早める。
キリキリと鳴く虫達、ぺタペタ歩く私、
ポツリポツリと落ちる雨粒。
じわり・・・じわり・・・、
胸の奥が熱くなる。
あぁ
「もうやめてやる」
ポツリと落ちた一言がコンクリートに染みていく。
うん。いつも通り。
夏のぬるい風が、今日も私を撫でていく。
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