天井の隅に蜘蛛の巣

4/5
前へ
/9ページ
次へ
『 ラッキー』『 あのバカ勘違いしてくれてよかったー』『 ま、こいつなら軽く謝っとけばいいでしょ』『 お腹空いたなぁ』『 焼肉食べたいなぁ』『 あ、まだあの仕事残ってた』・・・・・・・・・ 1ページの約半分を埋め尽くすように文字が浮かび上がる。 先程までの高陽感が嘘のように引けていく。 (あー) 「やっぱ、そうだよね。」 所詮人なんてこんなもん。 わかってはいたけど。 予想はしてたけど。 いざ、この目で見ると心に重しが乗ったようになる。 (あー、なんでこいつの名前書いちゃったんだろ) 後悔を感じながら、またビールを1口。 今頃、同僚は焼き肉を詰め込んだ腹でゆったり寝入っているのだろう。 怒りとも、悲しみともつかない。 虚しさが心に広がる。 (はぁ、気にしてもしょうがないか) 広がった虚しさを消すように、ビールを流し込む。 (あ、なくなった) しぶしぶながら、座椅子から立ち上がり新しいビールを取りに冷蔵庫へ向かう。 ビールを取り出しテーブルへ戻る途中、ふと思う。 (あ、なんならついでにあの上司の名前も書いてみようか) どんな気持ちで長々と説教垂れてくれたのか見てみたいものだ。 3度目の正直。とはまた違うが、ボールペンを手に取り、上司の名前と説教中の時間を書く。 少しばかり憎しみを込め、先程よりも濃いめの字がノートに書かれる。 字が浮かんできた。 「え?」 浮かんできた字を流し読んでいると、ある部分に目が止まる。 私の心に、先程とは違う波紋が広がった。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加