天井の隅に蜘蛛の巣

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『 なんでこんなミスを』『 全く新人でもこんなミスしないぞ』『 今日は何時頃に帰れるだろうか』『 期待を裏切ってくれるなよ』『 どうしてこいつは肝心な時に』『 私の気持ちも考えてくれないか』『 まだあの書類を確認していないな』 心のノートに浮かび上がった文字の中。 中程に書かれた1文に目が止まる。 『期待を裏切ってくれるなよ 』 思考が止まる。 (期待、してたの?) 何も、感じてないと思っていた。 期待などされる程、自分が優れてないのも知ってる。 知ってるのだ。 (どこに期待する部分があった?) それなりには仕事をしてきた。 でも、やっぱりそれなりで。 最近はミスも無くなって、怒られなくなっていた。 でも、今日の事件で帳消しになったと思っていた。 結局、自分の出来ることなどたかが知れているのだと。 (いや、落ち着け自分。) 所詮は人の心だ。 心変わりなんていくらでもするし、期待されたからどうする訳でもない。 心が見えようが、他人事は他人事である。 「あー、なんかむしゃくしゃするなぁ」 気持ちが落ち着かず、ボールペンをカチカチと鳴らす。 (もう、寝ようかな) (あ、そうだ) どうせなら、同僚の今の心をみてからにしよう。 再確認するのだ。人間とはどういうものなのか。 ボールペンを手に取る。 不思議と気持ちは凪いでいた。 (寝てたら字は浮かんでくるのだろうか?) 素朴な疑問を持ちながら、名前と今の時間を書き終える。 (あぁ。) (なんだよ) 「なんだよ」 気持ちが目まぐるしく、騒がしく変わる。胸が少し苦しい。 (やめよう) こんな、グダグダした自分を。 (もう、やめよう) こんな、何も進歩のない自分を 今なら少し頑張れる気がする。 今日までの自分は 「もう、やめてやる。」 テーブルに置かれていた心ノート。 浮かび上がってきた、同僚の心達。 その中には、 『 やっぱり、明日謝ろう』 そう書かれていた。
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