運命の本との出会

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道場の床は木に見えたが、合成材に間違いない。木は傷みやすいので、これまた金持ちの趣味だ。宮本は俺に気が付くと、 「おー、来たか」 と、武士の様な事を言った。 「来たよ、剣じゃないんだ」 と俺が言うと、 「治安部隊じゃ、拳法ばっかりやらされるそうだからな。今、練習してたんだ」 と返事が来た。 (へぇー俺の得意分野ラッキー) と俺が笑っていると、 「古武道じゃ、ダメだぜ」 と難癖をつけてきた。 「こいつ俺の弟、二郎、新宙拳の黒帯だぜ」 と俺に宮本の相手を紹介した。汗まみれのその長身の、兄貴とは似ても似つかぬ、良い男系の彼は、 「オッス」 と俺に挨拶をした。俺は軽く会釈した、 「で、俺にも教えてくれるのかな?」 と俺が言うと、 「又々、ご謙遜を。古武道だけじゃなく、この地域の格闘技大会の選手が良く言うよ。 相手にならないよ、お前の強さじゃ」 と宮本は言った。 弟はちょっとだけ、試合をしたそうな顔をした。俺は宮本に誉められて、少々慢心していたので。 まあ、俺様の伝説の技でも見せてやろうか、と思ってしまった。 宮本はタオルを弟に投げ、自分も別のタオルで汗を拭きだした。そして、道場の隅にペタンと座り込み水を飲んだ。 俺は宮本の横へと、靴を脱いで上がり込み、隣に座った。 「どう、毎日退屈してる?」 と宮本。 「ああ、遣ることねぇ」 「だよな、どうだい暫く家に泊まり込んでは? お前さんちも、古武道の道場だろうが、新宙拳はやらないだろう」 「ああ、親父は基礎、基礎、キソばかりの 本当、基礎オヤジだからな」 「あはは、基礎は大事だよ」 二人は笑った。 俺は転がっていた木刀を持って眺めて、座ったまま素振りをしてみた。 「ところで、前々から思っていたんだが。 お前さん、時々試合で変わった技使うよな。 ありゃ古武道?」 「ああ、あれね。ありゃ爺っちゃんが、大会前になると、1つだけ技教えてくれんだ。 親父は突きと蹴りしか教えないから。 俺は人の技を盗み見ては練習してたんだよ。 そこへ爺っちゃんが来て。そんな技、こうすりゃと、あっという間に返し技を見せてくれるんだ」
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