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一葉が初めて龍一にあったのは「京かのこ」の花が咲き始める頃だった。
職場の同僚にお寺に篠笛の演奏を聞きに行こうと誘われて行ったのがきっかけだった。
その篠笛の演奏者に出雲龍一がいたのだ。
お寺の一室で窓を全開に開けて、風を感じて窓から見える日本庭園を眺めながら篠笛の音色を聞く。
何とも言えない贅沢な時間を過ごす事が出来た。
一葉にとっては、生の篠笛を聞くのは初めてだった。
その音色の美しさに魅入られていた。
アゲハチョウもその音色に魅入られたように庭に集まり舞いながら飛んでいる。
その光景は、まるで幻想的な世界に迷い込んでしまったように思えた。
そんな世界の中で、端正な顔立ちに銀縁メガネをかけた出雲龍一の音色は特別だった。
一葉の心の中にすっと入り込み心を満たしてくれた。
一葉は、篠笛だけでなく出雲に対してもほのかな恋心を抱いた。
そして、出雲の方も一葉に一目惚れだった。
漆黒の黒髪に瞳、色白の肌、演奏しながらも視線を一葉へとやってしまう。
時折お互いに視線が合うのを感じていた。
やがて一日かけた演奏が終わると、出雲は一葉に声をかけた。
少し照れたような様子で食事に誘った。
「あのこの後一緒にお食事でも行きませんか」一葉は一瞬目を見開き龍一をまじまじと見つめていた。
眼鏡の奥には優しそうな瞳が見えていた。
その瞳にドキリとしながら、恥し気に返事を返す。
「はい」と短く。
その後、出雲の行きつけの懐石料理の店へと向かう。
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