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社長は、このところ元気がない。
体調は、決して悪くはないはずなのだが。
ふとしたとき目に留まるのは、深く沈んだ影のある表情だ。
そしてどういうわけか、古びた革表紙の小さな聖書を手にしていることが多くなった。
半年前までは、自分は無神論者だ、と言いきっていた人が。
何に関して、それほど思い悩んでいるのだろうか。
折に触れて、それとなく訊ねてみるのだけど、そんなときは必ず薄く微笑んで、
「気がかりなことなどない」
と答える。
そして、車いすを押している僕の手を肩越しにそっと握るか、腕に軽く触れて安心させようとする。
僕を心配させまいとして、嘘を言っているのだと思う。
精神的な悩みは、間違いなく体調にも影響を及ぼすと懸念されるから…
一生涯、彼の伴侶となることを宣言し、彼の健康全般にも責任を負う僕としては、あれやこれやと、日々思い当たりそうな要因を考えてみている。
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