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パリの屋敷で給仕係として働いていたミシェルという16歳の少年に、社長が拳銃で撃たれてからもう半年以上が経とうとしている。
ミシェルの手によって社長の背中に撃ち込まれた銃弾は脊髄を傷つけた。
車椅子での生活を余儀なくされてしまった彼は、今までパリ郊外のリハビリ専門療養施設で過ごしていた。
社長を撃ったミシェルは、事件直後、逃亡の末に、大西洋岸のモン・サン・ミシェル修道院から海に飛び込んでしまい、今も行方不明のままだ。
なので、ミシェルに関しては、社長は特に悩む必要もないのだろうと思う。
海で行方不明となれば、まさか殺し損ねたからと再び襲いに来るようなことはないだろう。
第一そんな性格の少年ではない。そのことは僕自身がよく知っている。
それにミシェルが社長を狙撃するに至ったのは、社長の養子であるアンジュに恋心を抱き、アンジュの身の上に同情したからだった。
ミシェルが社長を撃ってまで果たしたかったアンジュの日本への帰国と自由とは、今はもう完全に実現している。
となると、やはり、社長の悩みとして考えられるのは、アンジュのことだろうか。
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