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紅箜(くく)は閑に「瑪瑙(めのう)さん、いつもいつも仕事中に可愛いお嬢さんがたに連絡先を訊(き)くのはやめてください」と苦言を呈した。
閑も紅箜(くく)の苦言で少しは反省するが内心、以前の彼女であればこんな事務的なしゃべり方ではなかったなと苦い思いになる。
可愛らしいというよりも生真面目な印象を与える紅箜は店の後輩であり自身の友人の恋人でもある。
閑は彼女と初めて会った時、口数が少なくおどおどした態度を人見知りなのだろうと思った。
それが誤解だったことも判明しているし彼女の別の顔も知っている。
だからこそ一言「オレに対してずいぶんツメテエナー」と言ってやりたくなるがそれはお門違いなのだろう。
紅箜の恋人の篭囲 寛(かごいひろ)の束縛の激しさを知っているため誤解されないよう気を付ける日々だ。
※
客が帰り紅箜が早めに支度していると静也が「今日は彼氏さん、早く帰るんですか?」と声をかけた。
「ううん、ただ仕事終わりに外食することになって着替え、家でしてくるの」
静也のやわらかい笑顔と「いってらっしゃい」の言葉は紅箜にとっても(異性というより親近感を寄せる相手としてだが)魅力的だった。
それでも「じゃ」と一言無愛想に返すだけだ。
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