白い毛玉

2/3
前へ
/3ページ
次へ
夕方から、激しく続く雨音にまぎれて、微かなノックの音が聞こえた。 住宅街の一角にある、動物病院。 交番所を、よく言えば可愛らしく洋風にした小さな二階建ての一階に、受け付け兼事務机に突っ伏して居眠りしていた白衣の男。 コンコン (はーい 目を擦りなら、時計に目をやる 9と3をさしているが、この暗さなら9時を回ったところか、暇すぎて居眠りしてしまったらしい コンコン (開いてますよー 雨の音で聞こえないのだろうか 返事をしながら、ドアに向かっていく。 カチャ (うわっ?? 開いた白いドアの向こうに、びしょ濡れの女の子が立っていた。 (どうされました?中へどうぞ おずおずと、中へ入ってきた少女は 白いブラウスに、紺のプリーツスカート、紺のソックスに白い無地のスニーカー 胸元に、細いリボンは、いまは見えないが この病院の、近くにある中学校の制服だろう。 学生カバンの代わりに、オレンジ色のトートバッグということは塾の帰りかもしれない。 (ちょっと待ってて下さいね 小さな待ち合いの椅子に座るよう促し、タオルを取りに行きかけた男の目の前に、少女の手から白い毛玉が差し出された。 (あの、これ。落ちてたから 少し低めの淡々とした声だが、じっと見上げられた瞳は、すがりつくようにゆらゆらと揺れている。 ふっと息を吐き (わかりました と、頭を撫でようと上げた手を慌てて少女の背中に回し椅子を勧める。 (座ってて下さいね 動物じゃないんだから、気軽に撫でようとするなんて危なすぎだろ ああ、しかし生き物に、あんなに頼られるような瞳で見つめられるなんて (やっぱりいいよなぁ 声に出ていた。 (あ、早月中学校だよね?塾の帰りですか? タオルを差し出しながら、取り繕えるはずもなく 質問でごまかす。 少女は、気にならなかったようで、膝の上にタオルを置き、白い毛玉(今はちゃんとネコに見える)をそっと包んでいる。 (君も、拭かないと風邪ひきますよ 頭にタオルを乗せてやると、また、じっと見上げる 大きなつり目がちの瞳だが、優しい印象なのは瞳の色が鼈甲のように透き通っているからか 艶のある髪はかなり長く、まだ、幼いシャープな骨格に大人っぽさが合わさっている。 (ネコを… 早く小さなネコを、診てやってくれという訴えはわかるが、こちらにもそう出来ない事情がある。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加