白い毛玉

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苦い笑いを、浮かべながらそっと、タオルごとネコを抱き上げた。 しゃーっ!ふっふっ!はーっ 男が、抱き上げたとたん白い毛玉は、ツンツンに膨らんで目一杯威嚇しだした。 少女の鼈甲色の瞳が、一層大きく見開く。 (動物に、ね、何故だか怯えられるんだ 切なさと、獣医としての切実さの混ざりあった哀しい眼差しで、子猫を見つめた。 (だから、手伝ってくれますか? ふしっ、ふしゃーっ! 子猫と、男から同時に言われ、少女は噴き出した。 佐々木景都 大学生であり、獣医の卵。 祖父の代から、この町で動物病院をやっている。 両親は、仲が良過ぎて息子を祖父に預け、北海道に移住している。 牧場の専門医らしい。 ジイさんは、卵に店番を任せ、これまた人生を謳歌している。 趣味はカラオケらしい。 僕はといえば、愛する動物達に受け入れて貰えず 病院の、赤字に頭を抱えている。 自分が、動物達から怯えられる対象だと、確信したのは、小学5年の時。 高学年になって、世話が出来るようになったら子犬を飼って貰える約束だった。 事前に、しつけ方や、エサや病気について勉強して かなり、大きなショップに連れて行ってもらった。 最初に、少し育った洋犬がゲージの中にいて、触ってもいいようにしてある場所が目に付いた。 (わあ、ボストンテリアだよ! 近づいて、行くと周りの人に愛想を振りまいていた犬達が、どんどん隅に固まっていく。 あれ?大きな声を出したからかな? 陳列棚に隠れるように、様子を見てから再度そーっと近づいて行った。 毛のふさふさしたコリー犬が、振りかえって僕に気づいた 瞬間 さっと、尻尾を足の間にしまい、腰を落として後退りし始め 気づいたら、ゲージの中の全ての犬が、ガクガクブルブルで降参、降参と悲鳴にも似た声で鳴いていた オシッコを、漏らした気の毒な犬もいたが、本当に気の毒なのは、僕のほうだが 両親は、まさしく腹を抱えて笑っていた かなり、意気消沈したが、両親に小さなわんちゃんならどう?と気を持ち直したが、同じだった (子猫なら、きっと大丈夫よー と、ペットショップのお姉さんが、連れて行ってくれたが、降参ではなく、威嚇され 見ててもいいけど、ケースから離れてみてね。と 同情の余地もない、注意を貰ってしまった。 以来、一度も、動物の集まる場所には行っていない
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