キス命令

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その日、お母さんの言葉に蓋を開けたばかりのペットボトルを落とし、床にジュースを盛大にこぼして怒られた。 「……え?お母さん、いまなんて云ったの?」 「そんなことどうでもいいから、早く床を拭いて!」 ペットボトルを拾うと、中身は半分以上減っていた。 聞いたことが信じられなくて、呆然と渡された雑巾で床を拭く。 「もう、ミドリ、一体なにやってるの? それで、さっきの話だけど。 夏休みのあいだ、ナオくんをうちで預かることになったから」 「なんで、そんな……。 それに部屋だって」 ……聞き間違い、じゃなかったんだ。 ナオくん、その名前に身体が震える。 「ナオくん、こっちの大学受けたいから、夏休みのあいだだけでもこの近くの予備校に通いたいんですって。 でも、通学するのに三時間くらいかかっちゃうでしょ?」 ナオくんの住んでるところは、うちよりもかなり田舎。 個人の小さな塾はあっても、予備校はきっとない。 「それで、ウィークリーマンション借りようか、とかいう話も出てたみたいだけど、ならうちがって」 「別にうちじゃなくてもいいじゃない」
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