1通目 私と彼の残した手紙

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「交通事故で……。でも、綺麗な顔、してるでしょう? 打ち所が悪かったんですって……。なんでっ、なんでタツキが、あぁ……!」  そう言いながら泣きじゃくるタツキのお母さんを、タツキのお父さんは、涙を必死にこらえながら目を強く見開いて支えていた。  タツキのお母さんの悲痛なかすれた声が、鼻をすする音が、ただただ部屋に響き渡っていた。  タツキのお父さんが理由を話してくれたところによると、タツキは道路に飛び出した子どもを助けようとして自分が犠牲になったらしい。子どもが好きで優しかったタツキらしい、と思った。  昔読んだ小説の中で、一年間同棲していた恋人が、病気で逝ってしまった時、残された片割れの恋人は確かずっとずっと涙を流して喚いていたけれど、三年間同棲した恋人を失った私は、その事実が現実に起こったことであると感じることがどうしてもできなくて、一滴の涙も流せずに、ただ茫然と、そこに立ちすくんでいた――。
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