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「もうやめてやる!」
彼はテーブルに突っ伏してそう言った。
「どうして? ここまで頑張ってきたじゃん」
ちらりと、彼のエントリーシートに目をやる。
「だって、頑張っても。結局は無駄になるし」
彼は目だけをこちらに向けて、そう言った。
無駄という言葉が私の体に吸い込まれず、空中に漂う。
私は大学三年の夏頃から、就活を始めた。一人でやるのなら、みんなでやったほうが良いと彼に誘われ、私は就活仲間の一員になった。それからは、就活で何かある度、彼の部屋に集まるようになった。
就活仲間は私と彼以外に二人いた。一人は、髪が長くボソボソと話す、不健康そうな男。もう一人は、大学という甘い環境にどっぷりと浸かったチャラ男。
その集まった四人が、就活について談義する。彼らは、語彙力の差であったり、キャリアの差であったりを目の辺りにすると、顔を歪ませていた。あの場にいた誰もが、私と彼の就活は直ぐに終わると思っていた。
しかし、いざ蓋を開けてみると、私と彼だけが未だに就活を続けている状況であった。
「結局さ、こういうのって適当にやっていたほうが受かるんだよな」
彼は冷蔵庫からビールを取り出し、プルタブを引き上げる。
「あいつら、今頃俺らのこと馬鹿にしてるぜ。真面目にやっているのにまだ、内定決まっていないのかって。まあ、そんなことはどうでもいいけど」
そうかもしれないと思った。私も彼も、ボランティアだったり、大学外の活動だったり、みんながあまりやらないことをやってまで、自分のキャリアを高めた。それなのに、何もやってこなかった不健康そうな男と、チャラ男に先を越されてしまったのだ。もうこれは、ギャグの何物でもないだろう。
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