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「わけわかんねーよな。何が楽しくて、自分を企業に売り込まないといけないんだろうな。別に、こっちはどこでも良いと思ってんのに」
彼はテーブルにあったリモコンを取り、テレビをつける。わざとらしいリアクションが静かな部屋に響き渡る。
「確かにね」
適当な返事をして、自分のスマホに目を向ける。
まだ、連絡は来ていない。時刻は、もう二十時三十分を回っているというのに。
私は最後の方に面接を受けたから、結果の連絡が遅れているのかもしれないと、思いながらも不安になる。
あの日、二人の面接官が私の資格や活動を見て、すごいですねと驚いていたのが印象に残っている。私はそれを見て、どこかほっとしていた。大学でやってきたことは、けして無駄ではなかったと感じられた。私という存在が、初めて肯定されたような気さえもした。
それ以降も、興味津々に私の話を聞いている面接官の様子を見て、これは受かったかもしれないと感じた。
それほどの手応えがあっただけに、スマホがウンともスンとも言わないことに焦りを感じている。
「就活ってさ、曖昧だよな。今、自分がどのくらいの実力があって、どの立ち位置にいるか分からないし。面接だって、自分ではよかったなという感覚があっても普通に落ちるし。何が良くて、何が悪かったのか、それもよく分からない。本当に心折れるよ」
そう言うと、彼は目を細めて、テレビを見つめていた。
私は深く何度も頷いた。
彼は、この時点で十社ほど受けて、十社落ちている。
私も、七社受けて、六社落ちた。今日の二十一時までに連絡がこなければ、落ちた数が六から七に増える。
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