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「恵子はなんで、内定がなかなか決まらないんだと思う?」
彼は起き上がり、真剣な眼差しで私に迫った。
「えっ? うーんまだ、努力不足なところがあるからかな」
そういえばと、私は自分のスマホを手に取る。
恐る恐る、画面をタッチして確認する。時刻は二十一時三分。メールも電話も来ていなかった。私はこれで、7敗目を喫した。
私は一つ溜息をつく。
「どうした?」
「また、落ちた……」
「やっぱり、わざと……」
スマホに向けていた視線が、彼の方に向かって勢いよく走る。私の耳にはわざと、と聞こえたような気がした。でも、何かを聞き間違えたのかもしれないと思い、彼に何と訊く。
「お前、俺のこと好きだろ?」
「えっ!?」
「えっ?」
彼は目を見開き、違うのかと言いたそうな顔をしていた。いやいや、私よりも彼が驚いていることに驚く。何をどのように辿ったら、好きという結論になるのだろうか。念のため、私は彼に問う。
「いや、なんで私があなたのことを好きだと思ったわけ?」
「だって、俺もお前も明らかに内定を決めるスキルは持っている。でも、全然決まらない。これはつまり、俺と一緒にいたいってことだろ? 内定が決まらなければ、またここに戻って来れると思ったから、わざと落ち続けていたんだろ? そこまでするってことは、俺のことが好きなのかなって……」
そこまでを一気にまくし立てた彼は、満足そうな表情をしていた。
私は開いた口が塞がらない。妄想男が、まさかそっちの方面まで妄想を飛躍させていたとは思わなかった。今までの、彼の言葉が全て意味深に感じられ、鳥肌が体中を駆け巡る。
妄想男で色々と問題はあったけど、就活に関しては真面目にやっていると思っていたのに。裏切られた気分だ。
「なに? ちがうの?」
私が黙っていることにしびれを切らし、彼は私に問う
「いや、違うに決まってるでしょ! なんであんたなんかを」
「はあ? じゃあなんでお前は内定決まんないんだよ」
「うるさい! もう、あんたとの関係も、就活も、やめてやる」
そう言って、私は彼の家を飛び出した。
少しでも、羨ましいと思った自分が恥ずかしい。
あんな妄想男との関係も、就活も、やめてやる。
そう、私は心の中で誓った。
<了>
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