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「ねえ。なんで今日はおばさん、いないの?」
通学団長をしている六年生の良太が、横に並んで歩きながら訊いてきた。
「病院にいってるのよ。でも、検査してるだけだから大丈夫。すぐに戻ってくるから」
私がそう答えると、良太は、「そっか、ならいいんだ」と言い、通学団の先頭に戻っていった。
彼は、私の娘を守ってくれる心強い通学団長だ。そう思い、私の手を引いている娘の姿を見る。娘は、高学年の歩みに負けないよう頑張って歩いていた。その視界の奥にはアスファルトの端を破って吹き出る夏草の芽が緑色のグラデーションを描いている。確実に季節は夏に向かって傾き始めていた。
…………
広ヶ碕交差点の横断歩道の脇に、小さな石の地蔵が立っている。地蔵を雨風から守るためだろうか、コンクリートでできた頑丈な囲い屋根がついていた。
国道二三号線を横切るこの交差点は、全国でも交通量が特に多いところだ。信号機はあるけれど、登校する子供たちを渡らせるのはとても気を使う仕事だった。
私は、家から付き添ってきた長女の果乃の手を放すと、横断旗を差し出し、子供たちを誘導しながら道路の中央に進む。中央で四方に気を配りながら全員が無事に渡り終えるのを待った。子供たちが無事渡り終えるのを確認すると、横断歩道を渡り切り、待ってくれていた右折車の運転手に向かって深く頭を下げる。信号が変わり、片側二車線の国道を大きなトラックや輸送用の特殊車両がものすごいスピードで通行し始めた。
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