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『お母さん。今、子供たちを無事に渡らせたから安心してね』
スマホで母に連絡すると母から、『ありがとうね。助かるよ』と返事が返ってきた。
長女の果乃は、今年の四月に小学校に入学した。入学してからは、学童擁護員として制服に身を包んだ母が、毎日娘に付き添って危険な交差点を渡してくれていた。自分が子供たちを渡してみると、母がしてくれていたことのありがたみが本当によく分かる。子供は、ときに想定外の行動をすることがあるので、一時も油断できないのだ。
◇◇◇
母は、今年の五月の定期検診で肺に影が見つかったため、昨日、市民病院に一泊二日で検査入院をした。二日目の昼ごろに、検査の結果を聞きに来てほしいと病院から連絡があった。私は急いで洗濯物を片付けると市民病院に向かった。
平日の午後二時。外来診療はほとんど終わっている。私は、空いている駐車場に車を停めると、第二病棟の廊下をエレベーターに向かって歩いた。
周囲の空気に、ツンとしたアルコールのにおいと、すえたカビのにおいが混じっている。病院特有のこのにおいを私は好きではない。一番奥のエレベーターに乗り、四階に上がる。
ナースステーションで、「あの、佐野好美です。呼吸器科で検査を受けている本星洋子の長女です」と声をかける。すると、ステーション内にいる看護師から、「こちらに署名をお願いします。今、先生をお呼びいたしますので中でお待ちください」と言われた。
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