705人が本棚に入れています
本棚に追加
◇◇◇
母と二人で交差点に立った最後の日、子供たちを渡し終えてから母が言った。
「大事な話があるんだけど、ちょっとだけ付き合ってくれないかね」
「いいけど、何?」
「好美。こっちへ」
母はそう言うと、私を交差点の脇に立つ小さな地蔵のところに連れて行った。地蔵の周りには夏草が生い茂るっている。
母は、小さな地蔵の前に立ち、手を合わせ、しばらく念仏を唱えた後、地蔵の後ろ側に回り込んだ。私も、母と同じように地蔵の前で手を合わせ、後ろ側に回り込む。
すると母が、地蔵の背中を指さした。
「ここに何か見えるだろ?」
確かに、よく見ると、地蔵の背中の真ん中に、丸い継ぎ目が見える。ちょうど地蔵の背中に穴を開けて、その穴と同じ大きさの石で蓋をしたような感じだ。蓋の中央には石を削って開けた通し穴があった。
.
最初のコメントを投稿しよう!