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「あなたには、五つ年上のお兄さんがいたの。生きてたらちょうど四十歳になってるかね。名前は隆弘っていうんだけれど」
私は、自分に兄がいるなんて思いもしなかったので、心底驚いた。どうして今まで話してくれなかったのだろう。親戚の人たちからも、そのような話はひとつも聞いたことがなかった。
「お母さん。……生きていたっていうことは、今は亡くなっていないってことなの?」
「残念だけれど、隆弘は私よりも先にあっちに行ってしまったよ。今くらいの時間に、この場所でね」
母の目尻から、細い雫が流れ落ちた。そして母は、私の兄が亡くなった理由について話してくれた。
…………
兄は、小学校一年生の五月。ここ、広ヶ碕交差点の横断歩道で亡くなった。
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