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母は、薄紫色のお守りを、慈しむように両の掌で包み込みそれを額に引き寄せた。そして目を瞑ると何度も嗚咽し、ごめんなさいというように頭を縦に振った。
そうして十分くらい時間が経っただろうか。母は、地蔵の背中にお守りを戻し、蓋を閉めた。そして私の方を向き直って言った。
「あなたには、この償いは受け継がないから。あなたは、あなたの人生をしっかりと生きていきなさい」
母の言葉には、形容しがたいほどの重みがあった。私はひとこと、「はい」と答えた。
◇◇◇
母が亡くなったのは、それからわずか3日後のこと。あっけないほどの人生の幕切れだった。でも、死ぬ間際に、母が一生背負ってきた痛みを、私と共有できたことは良いことだったと今では思う。
兄について私に告白していなかったら、母はきっと、安らかに死ぬことはできなかっただろう。
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