心の扉

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私は交番から少し離れた、三ツ沢総合グランド入口のバス停のベンチに座って二人が帰って来るのを待つ。彼は地下鉄を使わずバスに乗るだろう。ユリちゃんを連れているから長い距離を歩きたくはないはずだ。 交番からは明かりが洩れている。私はあそこで彼の無事を祈り一晩過ごした事がある。交番が入っているビルは20階建で、一階部分には中華料理店や洋菓子屋さんもある。元々ここには交番は無かったらしい。オリンピックの開催をきっかけに設置されたと話してくれたのは彼だった。 雨がポツリときた。これから降りだすのかな。そういえば風が強く雨の匂いがする。もう21時。いくらなんでも遅すぎる。30分以上待っていたが、私の前を13本のバスが通り過ぎて行った。交番にも人の出入りはなかった。 二人が鶴見川まで行って花火を見ないで帰って来るとは考え難いが、もうとっくに帰っていたのかもしれない。それともやはり見間違いだったのだろうか。彼が身体を得るなんて、普通に考えたら有り得ない事だ。私の都合の良い願望でしかない。だとしたら、彼はずっとあの交番に居るはずだ。すぐそこに彼が居るんだ。 私は交番に入っていって、こう言うだろう。 「テツさん、こんばんは。リナです。憶えていますか。そうですよね。たった2年前ですもんね」 「ご無沙汰してすみません。3月に帰国したんです。ええ、すっかり元気になりました」 「ユリちゃん、大きくなったねえ。あたしのこと憶えてる?」 「ところで、彼はどこにいますか?ああ、あのコンピュータですか。彼は私のこと分かりますか?話しても大丈夫ですか?」 そして、ついに彼と再会する。 「ひっさしぶり!元気だった?え?身体が無いから元気かどうかなんて分らない?言うと思った」 「ごめんね。ここに来るのにかなり時間が掛かっちゃった。寂しかった?」 「あたしだってね、大変だったんだよ。ぶっ壊れたんだから。でも、あなたの方が辛かったよね、きっと」 「あたしね、今、八王子にある大学に通ってて、多摩センターに住んでるの」 「え?知ってる?なんでよ?全部調べた?キモイんですけど」 「うそうそ。これから毎日電話とメールするから。ウザくてもするからね。暇で仕方ないでしょ?」
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