11人が本棚に入れています
本棚に追加
レイカは気だるそうに頬杖をついて、液化してしまったかき氷を意味も無く掻き混ぜている。
「前にも訊いたと思うけど、オカ研て面白いの?」
「毎日刺激的でたまらないって感じではないけど、居心地は良い」
「そう」
「でも、最近フィールドワークを始めたから、少しは変わるかも」
あのトンネルに行った日から、時の流れが変わってしまった感じがする。半ば暇潰しのように怠惰に過ごしていた私の毎日が動き始めた。良い方向に向かっているのか悪い方向に向かってのかは分からないけれど。
「そうだ。このマンションにさ、変な噂があるの知ってる?」
レイカは本当に思いついたように言った。
「なにそれ知らない」
「最上階の20階は全部空部屋のはずなんだけど、その下の19階に住んでる人が言うには、上からドン、ドンて足踏みするような音が聞こえるんだって」
「その音を聞いたのは一人だけ?」
「二人。その隣の部屋の人も聞いてる」
「そもそも、その話は誰から聞いたの?」
「おしゃべりなオバさんがいるのよ。私の情報屋」
「ああ、いるね」
1階にこのマンションでは有名なオバさんが住んでいるのだ。このマンションは学生専用という訳ではないが、実際住んでいるのは学生がほとんどだ。そのオバさんには小学生の男の子がいるが、旦那さんは今まで見た事がない。もしかしたら母子家庭なのかもしれない。
オバさんはいつもエントランスホールのベンチに座って、コーヒー牛乳を飲みながら通りかかる人に見境なく声を掛けている。まるでアパートの大家さんのように振舞っている。人懐っこいのは良いのだが、私は朝出かけるときにスカートが短か過ぎると注意された。大きなお世話だ。話が逸れた。
最初のコメントを投稿しよう!