魔女

7/10
前へ
/121ページ
次へ
今日のレイカは珍しく口数が多い。 「それでね、どうもおかしいって事で、実際に20階に確かめに行ってみると、確かに空部屋らしくて、静まりかえって特に変わった事も無い。でも次の夜寝ていると、ドン、ドンってまた音がするので、堪らず管理会社に電話したんだって。もしかして自分が住んでいる19階の部屋は事故物件じゃないのかって聞くと、そんなことはありませんと言う。それじゃあ20階に事故物件はあるのかと問い詰めると、それにはお答え出来ません、て言ったらしい」 「んー、管理会社としては事故物件とか言えないのは分かるけど、怪しい言い方だね」 「だよね。なんか気になってしょうがない。今から20階に行ってみない?」 悪魔の誘い。いや、魔女の誘いか。 「嫌な予感しかしないんだけど。こんだけ連続するとさ、また死体が有ったりして。お約束で」 「それは嫌ね」 レイカは眉をひそめた。 私達なりにはしゃぎながら(周りからはそう見えない)、肝試しのような感覚でエレベーターに乗り、普段は押さない20階のボタンを押した。 常識的に考えれば、科学でこの世の全ての現象が解明されてしまった感のあるこのご時勢に、オカルトとか言ってると頭オカシイと思われても仕方が無いのは分かっている。でもオカルトは蜜の味。堪らない魅力があるのだ。 私は心霊現象など信じていない。今まで一度もそういう説明が出来ないような事に遭遇したことがないからだ。一見不思議な現象であっても、偶然の重なりであったり意外な真実によって構成されているものだ。そういう現象に対しても先入観を持たず、とりあえず真偽を確かめてみるというのが私のスタンスだ。 20階に着くとチン、とベルが鳴った。ここのエレベーターに乗るといつも気になるのだが、何故かレトロな音がサンプリングして使われている。スーッとスチールの扉が開くと、全く想像もしていなかった光景が目の前に広がっていた。
/121ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加