魔女

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「なにこれ?」 私達は長閑な田舎の風景の中に突然放り出された。人の手が入っているのは最低限で、そのままの自然が残っている。日本の風景とは違って、どこかヨーロッパのような雰囲気が漂う。生えている樹木の種類がそう感じさせるのだと思う。 舗装されていない道には石や木の枝が転がっている。いや、草が生えていないから道のように見えるだけなのかもしれない。その先には木造の橋や遠くには家のような建物が見える。 赤く染まる空を見上げると電気のケーブルや通気ダクトが見えた。天井がある。やはり建物の中なのだ。大きなホールの中に屋外の風景が再現されている。 「ラーメン博物館みたい」と、私は喩えてみた。 「なんかピンと来ないね。映画のセットとか言えないの?」 レイカに指摘されてしまった。そう言えば横浜ローカル過ぎた。 こんな呑気な事言ってる場合ではない。今、自分がどこに居るかさえ分からないのに。ここは本当に私達が住んでいるマンションの最上階なのだろうか。だとしたら天井が高すぎる。マンションの天井の高さはせいぜい2.5メートル。ここは少なくとも5メートル以上はありそうだ。どんな借主でも、こんなわがままなリフォームは有り得ない。 すぐ近くには小川が流れている。魚が棲んでいそうなほど綺麗な水だ。岸辺には背の高い草が生い茂っている。足元の草に素手で触れてみた。どうやら本物で、CGの類ではないようだ。 遠くでドン、ドン、ドンという地響きがした。音の方向を見る。 巨大な人型のモノが歩いている。岩石を集めて固めたような質感。目とか鼻とか口とかは確認できない。全長は3メートルを越えている感じがする。天井に近い。天井はこの子に合わせて高くしてあるようにさえ感じた。大きな建物がないので、頭ひとつ抜けている。 「音の原因はあれか」 レイカは遠くの岩男を冷静に眺めて呟いた。いろいろ変なのに全く気に留めていないようだ。19階の住人が悩まされている騒音の原因はどうやらあいつの足音らしい。
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