魔女

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「あれロボット?何で出来てるんだろ?」 「岩でしょ」 レイカは当然とばかりに答えた。 「そりぁ、岩だけどさあ」 レイカは不思議とこの奇妙な状況を受け入れている。私よりオカルトに向いてる気がする。 川沿いを進んで行って橋を渡る。橋は丸太をロープで束ねただけの単純な作りだ。歩いて渡ってみたら意外にしっかりと頑丈に出来ていることが分かった。 「19階の人はここを見て他の階と変わりないって言ってたんだよね?だいぶ違うけど」 「私達はマンションから違う場所に飛ばされたのかもしれない。とにかくあの家まで行ってみよう」 「違う場所ってどこよ?」 そんな気まぐれなエレベーターは困る。 私達は木立や背の高い草の陰に隠れながら少しずつその家に近づく。家は三角の屋根がそのまま地面に突き刺さっているような構造になっていて、石で組まれた四角い煙突から白い煙が上がっている。軒先には灯篭のように獣の頭蓋が晒されていた。 窓からは灯りがもれていた。家の裏手に回ると大きな樽が3つ置いてあった。樽の陰に隠れて家の中を覗く。 「誰か居る」 「シッ!」 レイカは人差し指を唇に当てて私を一瞥した。私は普通に声をたててしまった。家の中には老婆がいた。フードが付いている黒いマントのような服を纏っている。そのゆったりとした服の外からでも丸まった背中の形が見て取れた。少し斜め後ろから見ているのでその表情は窺えないが、皺が深く刻まれた顔立ちで、彫りが深く鼻は高く顎も尖っている。頭髪は長い白髪を縛っている。まさに絵に描いたような魔女といった感じだ。 老婆は大きな鍋で何かドロドロとしたものを煮込んでいて、長い木のヘラでゆっくりとかき回している。肉の脂と野菜の土臭い匂いがする。食べ物だとしたら老婆の分としては多過ぎる。あの大きな岩男の夕飯だろうか。岩男は魔女の呪いで生命を与えられたのかもしれない。 そんな事を考えていたら、ふと老婆が振り向き、目が合ってしまった! 一瞬だったが、その眼力は一生忘れられないぐらい強かった。鷲のような鋭い眼光。
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