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家の中は前と変わった様子はなかった。母はダイニングで料理していた。
「ああ、お帰り。そっち座ってて」
忙しそうな母は振り返ってリビングの方を指した。リビングの窓際の座布団には、すでに兄が陣取っていた。
「よう、リナ。意外に元気そうじゃん」
「意外にって何よ?」
言われてみれば確かに、最近の私は休みの日も部室に行ったりバイトをしたりと、高校の頃よりも外に出る事が多くなったから、何となく健康的に見えるのかもしれない。
兄は私の二つ上で”一流”大学の4年生。国家公務員の試験をすでに受験していて合格確実らしい。ついに官僚サマになってしまうのだ。敗北を知りたいタイプだ。挫折を味わっていない人間はどこか危なっかしいと感じる。兄とは仲が悪い訳ではないが、母と同じで優等生で面白味がないので、本当に腹を割って話せる関係ではない。でも兄は嫌味がないし、私みたいなポンコツにも優しくしてくれる。
「お前、何かサークル入ったのか?」
「オカルト研究会」
「相変わらず物好きだな。オカルトって今時成立するのかよ?」
「かなり微妙。あたしは否定検証派」
「だろうな。サークルは楽しいか?」
「まあね。居心地は良い」
「それは何より」
そう言いながら父がやってきて、兄の隣に座った。
普段はダイニングで食事するのだが、今日はリビングの低いテーブルにオードブルのような料理を用意していた。ラップの掛かった皿もある。親戚が集まる時にこういうのをよく目にしたことがある。私達が久しぶりに帰って来るので、母が腕を振るったのだろう。私達兄妹はいつの間にかお客扱いされるようになってしまった。
テレビでは高校野球が流れていた。吹奏楽のエル・クンバンチェロで応援している。
「暑そう。甲子園て何でドームにしないの?選手も観客もガマン大会だよね」
「様式美だよ。高く上がった打球、仰ぎ見る青空と黒いスコアボードのコントラスト」
父は目を細めてテレビの画面を見た。
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