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「今年もそこで県大会やってたの?」
そことは家の近くの保土ヶ谷球場のことだ。昔から神奈川県大会の会場となっている。
「ああ、ちょっと覗きに行ってきたけれど、相変わらず盛り上がっていたよ」
ちょっと覗きになんて言ってるけど、父は休日にはどこの高校とは構わず、結構ガッツリと応援に行っているのだ。母が大皿を持って入ってきた。
「お待たせ。素麺。あんた好きでしょ」
そう言って、テーブルの真ん中の空いていたスペースに大皿を置いた。今日は何で私に気を使うんだ。なんか気持ち悪い。母はまとも過ぎて時に冷たく感じる事がある。正しい事は正しい。それは分かるが、人の感情は複雑で微妙なのだ。それを尊重する細やかさが母にはない。
「さあ、お祈りしましょう」
準備を終えた母が最後に席に着いた。父による祈りの言葉の後、食事を始める。
鶏のから揚げとエビチリがメインのおかずで、茹でたオクラやキュウリとトマトのサラダといった夏野菜がテーブルに並んでいる。少し作り過ぎな感じはするが、残ったら夕飯に回すのだろう。私は薬味のネギとミョウガをとって素麺をいただくことにする。
「あんた、大学でちゃんと勉強してるの?」
母がいつもの口調で言った。
「ちゃんと講義に出てるし、図書館にも通ってる」
「図書館。どうせ関係ない本読んでるんでしょ」
「ううっ」
完全に見抜かれている。
「学費安くないんだから、ムダに過ごさないでよね」
学費を出してもらっている手前、何も反論はできない。
「母さん、大学なんて普段は遊んでても、単位を取ってさえいれば良いんだよ。重要なのはゼミだ。就職は結局ゼミ絡みのコネが一番強いんだから。要はリナ、良いゼミに入ることだ」
兄は私をフォローしたつもりなんだろうが、また面白味のない事を言った。
「ゼミねえ」
私は入学したばかりなので、就職なんて全く見据えていなかった。
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