ウエルカム ホーム

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「それで、最近調子はどうなのよ?」 母はすぐに私の精神状態を聞きたがる。私はいつも何と答えて良いか分からない。 「悪くない」 「何なのよそれ。そうだ、教会が紹介しているメンタルケアセンターがあるの。希望ヶ丘の駅からすぐだから、あんた一回試しに行ってきなさい」 出た。私の気持ちを全く考えていない。そういう仕組みが有れば活用するのが絶対正解だと思っているのだ。頭に浮かんだのは、グループカウンセリングだった。考えただけでゾッとする。 「そういうの苦手」 私はそう言って、茹でたトウモロコシを手に取った。 「そういう問題じゃないのよ。あんた病院にも行ってないんでしょ。放置したままじゃ良くなるわけないじゃない。何か対処する必要があるのよ」 私の態度が悪かったのか、母がヒートアップしてきた。私の方も限界だ。私は音もなくスッと立ち上がるとリビングを後にした。 「母さん、あまり強く言っちゃダメだ」 後ろから父の声が聞こえてきた。母は何も言い返さなかった。私は階段を上がって自分の部屋に避難する。リビングは居心地が悪い。中学高校の頃は寄りつかなかった。 私の部屋はカーテンが閉められ薄暗かった。蒸し暑いのですぐにエアコンを入れた。少し埃っぽく感じる。私はカーテンを開けず、照明も点けずにベッドに腰掛ける。私の部屋は基本的に高3の時に出て行ったままになっている。今住んでいるマンションに引っ越す時に必要な物をダンボールに詰めて持って出たくらいだ。改めて眺めてみても、殺風景で女の子らしくない部屋だと思う。何か特徴があるとすれば、アンティーク風の家具と紙の本のコレクションだ。父が階段を上がって私の部屋に入ってきた。ドアは開いていた。 「リナ、これ部屋に置いといてくれ」 父が持ってきたのはキュウリで作った馬とナスで作った牛だった。予め作ってどこかに隠しておいたのだろう。 「なにコソコソしてるの?隠れキリシタンの逆バージョン?」 「そう、キリシタンに迫害されているんだ。ママに見つかると怒られる」 その二頭をチェストの上に置いた。 「よく出来てるね、これ」 「そうだろ」
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