11人が本棚に入れています
本棚に追加
/121ページ
時は2089年8月。
夏休みに入ったが、私はとりあえず大学に通い読書に勤しんでいた。ずっと自分の部屋に篭ってるのは嫌だし、ファミレスのアルバイトに出掛ける以外には他に行く所も無かった。
今の時代、書籍はほぼ100%電子データで流通していて、紙媒体で新たに出版される本は殆ど無くなってしまった。私は紙の本が好きで古本を買い漁ったりしていたが、高価なので自分で買うのにも限界がある。それで必然的に図書館を頻繁に利用するようになっていた。
大学の図書館はお盆休み以外は開いていると聞いたので、私は図書館か部室のどちらかに居た。部室にも興味を惹かれる本は幾らでも有った。代々の先輩が置いていった本たちだ。
我がオカルト研究会は今年度、ここまで活動らしい活動をしていない。部室に集まって雑談したり、古いホラー映画のビデオを観たり、飲みに出掛けたり、そんな緩い感じだ。そして夏休みになると殆ど誰も顔を見せなくなった。
夏休みになっても学内で毎日活動しているのはガチの体育会くらいだ。静まり返って透明な構内も良いものだ。空間を独り占めしているみたいで。そんなある日の夕方、そろそろ帰ろうとしていた所に、大沢ナオキが部室に入って来た。
「おいっす。やっばり居た」
彼は商学部で、私と同じく1年生だが私の方がひとつ年上である。私は高3の時から2年間イギリスに居て入学が遅れたのだ。つまり一浪と同じである。
「りなっち、暇なの?」
「その呼び方やめてくれる」
「なんで?」
「バカっぽいから」
「そうかな?」
彼は首を傾げた。
「つい最近まで森崎さん、て呼んでくれてたのに」
「それだけ親しくなったってことで」
「別に親しくなってないけど」
我ながら冷た過ぎると思う。でも彼は少しぐらい憎まれ口を叩いても許してくれる。そんな信頼関係が有るという意味では、親しくなったと言えなくもない。
最初のコメントを投稿しよう!