心の扉

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JR鶴見駅の階段を上って改札を抜けホームに下りる。ちょうど来た各停の桜木町行に乗る。 電車内は吊り革が埋まる程度には人が乗っていた。浴衣姿の人も乗り込んで来た。花火の影響で多少混んでいるようだが、最後まで見ていた人はまだ押し寄せてはいない。私はドアの側に立ち、流れて来る見慣れない夜景をぼんやりと眺める。高校の時もこっちの方にはあまり来なかったな。 横浜駅に着いたのは20時ちょうどだった。西口の方に歩いて市営地下鉄に乗り換える。あざみ野行。鉄が焦げたような懐かしい地下鉄の臭い。ブルーラインに乗ったのも高校の時以来だ。ドアの上に表示されている路線図を見る。片倉町という駅名が目に止まる。マキが発見されたのはこの近くの公園だった。 マキが亡くなったと聞いた時、私は何とも言えない感情だった。何故か悲しさを強く感じなかった。たぶんあの時、彼女の一番近くに居たのは私なのに。マキが死んだのは私のせいかもしれないと、ずっと考えていた。彼女は妊娠しなければ死を選ばなかっただろう。そして、あの事件がなければ、彼が死ぬこともなかった。彼女がフェルナンデスとそういう関係なのは知っていたし、知っていて止めなかった。自分だけは安全な場所に身を置いていた。お互いにその場では気遣う事はあっても、本当の意味での友達ではなかったような気がする。 そんな事を考えていたら、すぐに三ツ沢上町に着いた。ホームの端まで歩いてエレベーターに乗る。この駅は地下のかなり深くにホームがある。改札を出て、さらに階段を上がる。 地上に出て左に進むとコンビニとお弁当屋がある。せせらぎ緑道を抜ける。あの頃は坂道や階段を避けて比較的平坦な県道沿いの道を使っていたが、今は逸る気持ちを抑えきれず、交番の方へ真っ直ぐに続く馬術練習場の脇を通る坂道を上る。 私は何故か走っていた。けれど私の脚力はこの勾配に敵わない。すぐに足が重くなり、フラフラになる。汗だくでTシャツはずっしりと重くなり下着までかなり湿っている。髪もベタベタしてかなり不快だ。坂道を上りきってしばらく行くと歩道橋が見えてくる。ついに二年振りに交番の前まで来た。
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