第4章 花火

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[廿伍] 僕と宏美は「凄い会話をしているな」と顔を見合わせた。 どう対応して良いか更に分からん。顔が引きつるとはこういう事なんだろう。 大人になったらこんな話題は普通なんだろうか? ある意味大人の凄さというかおばはんの凄さを感じた。 少なくとも息子の前で、いや息子と息子の同級生の女の子の前でされる会話なんだろうか? 「しゃあないな。宏美ちゃんが許したらあげるわ」 オフクロは唐突に話題を振ってきた。 「え?」 僕と宏美は2人で固まった。さっきから何回フリーズしただろうか? 仁美さんが宏美の顔を見た。 なぜ彼女に?という疑問符が仁美さんの顔に書いてあったが、それはすぐに消えて笑顔に変わって宏美を見ていた。 僕は恐る恐る宏美を横目で見た。 しかし宏美はニコッと笑って、 「あげません」 と言い切った。 その顔を見て僕はドキッとした。 人の心は一瞬で盗まれるものだと、初めて知った。 この笑顔が毎日見られるなら、何でもできるとさえ思った……が僕の顔は固まったままだけど。 そして、宏美の横顔は凛々しくて清々しかった。 仁美さんは一瞬驚いたような顔をしたが 「しゃあないなぁ。その顔で言われたら勝てません」 と素直に笑いながら引き下がった。当たり前だけど。
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