第4章 花火

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[廿六] オフクロは 「残念やったね。仁美」 と笑いながらグラスの焼酎を飲んだが、直ぐに僕に 「なに、にやけてんねん。この色男が……」 と座った眼のまま口元だけが引きつりながら笑っていた。 多分、宏美の返事を一番驚いていたのはオフクロかもしれない。 「高校時代のあんたと同じやな」 と仁美さんはオフクロに言った。 オフクロは振り向いて 「ちゃうわ」 と否定したが仁美さんは笑って僕に言った。 「良いモノを見れたわ。大事にしなさいよ」 「ほれ、息子を彼女に取られた雪乃ちゃん。飲みなさい。あんたの息子のIndependence Dayなんだから」 とオフクロの肩をポンポンと軽く叩いていた。 オフクロは自分の放った一言で撃沈した様だ。 僕は宏美の顔を見た。 宏美は俯うつむいていたが、僕が見ているのに気が付いて振り向いた。 この場合。何て言えば良いんだろう……。 「ごめんね。勝手にあげないって言ってしまって」 宏美は笑ってそう言った。 「ううん。どうぞって言われなくて良かったよ」 とっても嬉しかった。でもこれが精一杯の返事だった。 これって立場が逆じゃないか?と思ってしまった。 男のくせに僕は情けない……とまで思った。 しかし言葉がでない。何を言っていいのか分からない。
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